仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
目の前に広がったのは八十平米ほどの広大なリビングルーム。

白を基調とした空間は、ダークカラーの高級感あふれるモダンなインテリアで優雅に統一されている。

「わあ……」

思わず吸い寄せられてしまう、美しい庭へ続く大きな窓。
窓枠によって絵画のように切り取られた緑の木々が、静観な印象でライトアップされている。

ホテルのように東京の夜景を一望できるわけではないが、この部屋から見える景色は正にリゾートのようだった。
眺めているだけで穏やかで静かな時間の流れに癒され、身体から自然と緊張感が抜けていくのがわかる。

もしかすると彼はこの緑のある景色や時間を、代え難いものと思っているのかもしれない。
常盤社長がどんな人なのか、少しだけわかったような気がした。


「おかえりなさいませ。いつもながらご予約の時間ぴったりだ」

ダイニングの奥にあるキッチンには、白いコック帽をかぶった壮年の男性が立っていた。
良い匂いの正体は、彼が扱うオーブンからだったらしい。

「人を待たせるのも待たされるのも僕は嫌いだからね。“人生は時間によって出来ている”」

「肝に銘じておきます」

お馴染みのやり取りなのか、コックの男性は楽しげに肩を揺らした。
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