仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
いつも寡黙な父曰く『想定の範囲内だ。安心して帰ってきなさい。お見合いの話も無いわけじゃない』。

電話をくれる母曰く『実家で花嫁修行をしたらいいじゃない。結衣ちゃんを紹介してほしいって話も来てるのよ』。

お父さんもお母さんも心配かけてごめんね。
今はこんな結果だけど、自分から始めたことは途中で投げ出したくない。


限界まで挑戦して、出来れば最後までやり遂げたい。だからお見合いはできません……っ!


今日こそは絶対、お仕事をもらえるようなキッカケを作らないと。
もしかすると、これが私に残された最後のチャンスかもしれないのだ。

もう待ってるばかりの私じゃないんだから!

ドキドキする心臓の上に手のひらを置いて静かに深呼吸をしてから、グッと拳を握って、決心とともにひとつ頷く。

そのまま壁際で忍びのごとく息を潜めつつ、美貌の青年もといクライアントがいる会議室の様子を窺った。


室内では社長が在籍モデルの資料を捲りながら、誰かのプロフィール欄を指差している。
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