仮初めマリッジ～イジワル社長が逃してくれません～
「おはようございます。キッチンをお借りしました。お先にサラダとスープからどうぞ」

「そう言えば、いい匂いがすると思ってた。ありがとう」

顔を合わせたらドギマギしてしまうんじゃないかと思っていたが、彼の様子にホッとした。
ダイニングテーブルにサラダと温めたミネストローネを並べる。

出来上がったスクランブルエッグとソーセージをお洒落なグレーのお皿に盛り付け、パセリを散らした。

いつもアルバイト先のカフェで作っているメニューも、食材やお皿が違えば少し豪華な朝食に見える。
慧さんの前で綺麗に作ることができて良かった。


時計を見れば、七時半を過ぎていた。
慧さんは「ご馳走様でした」と手をあわせる。

「美味しかったよ。まさか君が料理できるとは思ってなかったから、驚いたけど」

「いえ、これは勤務中のカフェでいつも作っているメニューなんです。普段は、あんまり」

「そうなんだ」

むしろ普段はお仕事もなく崖っぷちの状態だったので、本当に食費に困っていた。朝食なら良くて食パン一枚だけだ。

慧さんはそんな私の内情にも気付かず、口元を優しげに緩めた。

「こういう穏やかな朝も悪くない。僕も自分で朝食を作るけど、作りながら常に仕事のことを考えてるから。毎日味気ないんだよね」

淹れたてのコーヒーを飲みながら、彼は幸せそうにほぅっと息を吐く。
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