仮初めマリッジ～イジワル社長が逃してくれません～
カーテンが全て開かれた広い窓からは、室内に朝日が燦々と降り注いでいた。
庭に来ている鳥たちの囀りも響いている。

本当に優雅な朝だと感じながら、私もコーヒーを口に含んだ。

「……ねえ、結衣。僕の我儘を聞いてくれる？」

窓枠に縁取られた絵画のような庭を眺めていた慧さんが、視線を私へ戻す。

「我儘の内容によります」

王子様の我儘なんて、きっと碌なものじゃなさそう。
だって彼は昨日から意地悪ばかりで、私を翻弄しっぱなしなのだ。

彼の琥珀色の瞳を見返すと、そこにはただ穏やかな色が浮かんでいた。

慧さんは長い睫毛に縁取られた双眸を微かに伏せる。

「――これからも、ずっと。僕のために朝食を作ってくれないかな」

我儘なんて言うからどんな無理難題を言われるかと思っていたのに。こんな可愛いことを言うだなんて。

普段は余裕たっぷりの王子様が少年のように告げた我儘に、思わずきょとんとしてしまった。

「はい、もちろんです！　居候させてもらっていますから、是非お手伝いさせてください」

そう返事をすると、微かに彼の長い睫毛が震えた。
慧さんはこの上ない幸せを噛み締めるように、亜麻色の髪をくしゃりとする。

「ははは、うん。ありがとう」

そう告げた表情は、誰よりも美しかった。
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