仮初めマリッジ～イジワル社長が逃してくれません～

悩んだのち【夜ご飯は食べてきます】と付け足した。

私は与えられたウォークインクローゼットの中から一番シンプルでカジュアルな洋服を見つけ出して着替えると、きっちり戸締りをして慧さんの家を出た。



その日の夜。

「お疲れ様です」とカフェを出ると、駐車場には見覚えのある白い高級車が停車していた。

もしかして慧さん？　と注視していると後部座席のドアが開く。

ブリティッシュスタイルのスーツにゴールドのアスコットタイを結んだ美貌の王子様は、車からおりてくるなり長い足を捌いて私へ迫った。

「君を迎えに来た。他の男と食事に行ったりたりしたら許さない」

すこぶる不機嫌な声音で、慧さんは亜麻色の髪を掻き上げながら言った。目が据わっている。

「え！？　いえ、そんな予定は」

「君の言い訳は聞いてない。帰るよ」

まるで逃がさないとでも言うように、強制的に腕の中に閉じ込められた。
彼に攫われるようにして車に乗せられる。


そうして、何が何だかわからないうちに慧さんの家に帰宅すると、ダイニングテーブルには今夜の夕食が用意されていた。