愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~
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土曜の夜、駅まで早番の雫を迎えに行って、ふたりで夜桜見物をした。
といっても、ライトアップされているようなところは近所にない。街灯に照らされた桜並木を見るだけだ。
新しくできたマンション群の付近は道路や街路樹も整備され、八分咲きのサクラが左右に並んでいる。桜のトンネルだ。
「綺麗〜。この街の桜は初めて」
「本当に綺麗だね。公園の方も回ってみる?」
「うん」
夕食はマンションの近くのパスタ店に寄る算段はつけている。ゆっくり桜を眺めるのもいいだろう。
日中あたたかいので満開まではあっという間だろう。
葉桜になる頃、俺と雫の関係はもう少し進展しているだろうか。
焦る必要はないのはわかっている。だけど、もう少し。あとちょっとだけ男女の関係らしくなってもいいんじゃないか?
そんな言葉は飲み込んで、俺は世間話的に口を開く。
「仕事は順調?」
「うん、おかげさまで」
答えた雫がふと浮かない顔をしているように見えた。伏せられた睫毛の影や、唇を噤んだ表情のちょっとした違和感だけれど。
「どうかした?」
「んー、高晴さん、ちょこっと相談してもいい?」
街灯の下、雫が立ち止まった。風が花で重そうな枝を揺らす。俺を見上げてくる妻の顔を見て、なにやらさらっと流せる話ではなさそうだと思う。
「どんなこと?」
転勤だとか、実家の事情だとか、不穏な話でないといいなと内心おののきつつ、冷静を装い答える。