愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~
俺は反射的に笑顔になっていた。
頭の中は暴風波浪警報状態。しかし、そんなことは表情に出せない。

「そういうことなら、行ってきた方がいいさ」

俺の言葉に雫が頼りなさげに視線を揺らす。

「そう思う?」
「少しでも仕事が関わってしまうと、私情だけで判断できなくなるんだよな。営業や会社のことを考えている雫さんは偉いよ」

耐えろ、俺。絶対に言うな。『行くな』なんて。

「それに、相手は売れっ子のデザイナーだろう?センスのいいお店に連れて行ってもらえるかもしれないよ。我慢するだけの仕事じゃないさ」

背中を押す俺の言葉に、雫は柔く微笑んだ。

「そうかもね。じゃあ、美味しいもの食べさせてもらって、義理を果たしたらソッコー帰ってくる」
「うん、そうすればいいよ」

俺は自分でもびっくりするくらいにこやかだった。
せっかく花の見頃なのに、頭の中はもう桜どころじゃなくなっていたというのに。

ぶわっと一際強い風が吹き、雫が「ああ、散っちゃう」なんて呟く。
その声が少し遠く聞こえた。

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