愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~
帰って急いで仕込みに入る。早めにってことは間もなく帰宅だと思うんだけど。
せめて三十分はお肉を漬け込みたい。

次の瞬間、玄関のチャイムが鳴った。なんだろう。高晴さんなら鍵を開けると思うんだけど。インターホンに出ると、カメラには高晴さんが映っている。

『俺です』

声が普段より低い。すごく疲れてるのかな。

ドアを開けると、そこにはやっぱり高晴さん。しかし、背の高い彼の身体がぐらりと傾いだ。そのまま玄関に膝をついてしまった。

「高晴さん!」

これは尋常なことではないとすぐに気づいた。

「高晴さん、大丈夫!?どこが苦しい?」

言葉が出てこず、浅い呼吸をしている彼の額に手を当てた。ものすごく熱い。高熱だ。

「しずくさ……ごめ……ん」

立ち上がれないでいる彼をどうにか上がり框に腰かけさせ、私はスマホで今から見てもらえる病院を探した。
準夜間の救急外来が近くにある。
すぐにタクシーを呼び、ひとこと声をかけただけで了承も得ずに彼のお財布を漁った。うん、保険証は入ってる。

そこからが大変だった。
意識もうろうの成人男性をエントランスまで下ろし、タクシーに乗せなければならないのだから。
なお、強いヒロインやパワフルなBLの受けが大好きな私としましては、ここで高晴さんをお姫様抱っこできたら、今世紀最高にカッコイイと思えるんですが、いかんせんリアルはアラサー非力女子なので、めちゃくちゃしんどかった。
背の高い高晴さんの腕を私の肩に回させ、ふらふらな身体を支えながら歩くのだ。
彼がひっくり返ったら私も共倒れだし、ひとりで起こすのは不可能なので、必死に声をかけながら意識をたもってもらう。
< 143 / 172 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop