愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~
雫本人だって、こんな風に奪われるはずのものではなかったと思っているだろう。
そして、優しい彼女は俺の暴走をも許してくれるはずだ。それがわかる。

しかし、それでは駄目だなのだ。風邪でわけがわからなくなっているときに、抱いてしまうなんて。
この先長く夫婦をやっていくというのに、最初も最初で彼女の期待と信頼を裏切ってしまった。

そして、自制の利かなかった自分に嫌気がさす。
勢いや欲求だけじゃなく、互いの気持ちを伝え合い尊重し合い行為に及ぶはずだった。雫の幸せはその先にあったのに。
布団にもぐり、シーツに額をこすりつけて呻いた。
俺は馬鹿だ。本当に馬鹿だ。


身体自体はまだ完全回復とはいかなかったようで、俺は自己嫌悪に呻きながら、いつしか眠りについてしまった。

次に気づいたのは夕暮れ時。
部屋は薄暗く、俺は昼飯も何もかもすっ飛ばして眠っていたようだ。
頭が重い。熱は下がったけれど、身体がだるい。ベッドのシーツを替えながら、絶望感がひたひたと心を満たしていく。

もうすぐ雫が帰ってくる。俺はどんな顔をしたらいいんだろう。
まずは謝るべきなのだろう。気にしていないとか、夫婦なんだしと、笑うであろう雫に俺はどんな償いをすべきか。

だって、雫は……まだ一度だって俺を好きだなんて言っていない。

俺たちはいまだ運命共同体の仲間だったのだ。ゆっくり距離を縮めていくはずだったのだ。
微妙なバランスの関係をいっぺんに崩したのは俺だ。

いても立ってもいられなくなり、俺はクローゼットを開けた。
ジーンズと半袖のシャツを身に着け、寝室を出る。そのまま鍵だけ持ってマンションを飛び出した。


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