愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~
そんな彼女の名前すら俺は覚えていなかった。

え?つまりはあのベアぞうを「くましゃん」と呼び、嬉しそうに抱えていた彼女がこの写真の雫さんってことか?

「美人になったでしょう?」

母が得意げに言う。母が得意になる理由はないのだが、確かに美人だ。

「聞けば、あまり男性とお付き合いに興味がある感じじゃないんですって。お休みの日は家で本ばかり読んでるそうよ。大人しい子なのね」

こんなに可愛い女性がインドア派?嘘だろう。
普通、こういうモテそうな女子は、休日は女友達と買い物してまわり、カフェでパンケーキを食べ、エステやヨガに通うものじゃないのか?
飲み会に行けば引く手あまたで、男たちに囲まれて困った顔をしているタイプに見える。常に彼氏がいて、余裕がありそうな雰囲気の女子だ。

というか、本当に可愛い。
一般的な美的感覚で言えば女優やモデルほど可愛いわけじゃない。しかしすごく可愛いと感じるのは、俺の記憶の片隅にあのベアぞうを抱いた少女がいるからだろうか。

……いや、今日この瞬間まで忘れていたんだから、素直に認めよう。

ものすごく好みなのだ。この雫さんという女性が可愛いのだ。
撃ち抜かれるほどに一目ぼれしてしまったのだ。

「どう?会うだけ会ってみない?会ってみて性格が合わなければ仕方ないじゃない」
「そうだね……」

本当は心の中でイエスを連呼していた。
しかし、ここでがっついてはいけない。息子が超ノリ気と知ったら、母はなんとしても縁談をまとめなければと張り切って余計なお節介を焼くだろう。

「会って、父さんと母さんが納得するなら付き合うよ」

俺の返答に、母は困った顔で笑った。きっと、今回も脈無しかと思っただろう。

違う。
違うのだ。
三回目のお見合いにして、俺は超絶本気だ。
どうにかして、この縁をものにしなければいけない。
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