愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~
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その日の帰宅は結局俺も随分遅くなってしまった。
夕方からの定例会議に、なんの思いつきか社長と会長が乱入し、『せっかくだから最初から経緯説明を』なんて流れになったのが悪かった。
会社のトップ陣をはいえ、研究開発の分野は専門的すぎてわからないことも多い。そこを用語解説も交え、途中まで進んでいた話を一からやり直した。正直、素人は黙っていていただきたいような突っ込みも多く、俺をはじめとした多くの同僚たちはため息ものの長丁場だった。経営陣向けに専門的な用語を省いた報告会も定期的にやっているのだから、そちらを聞いてくれた方がお互いのストレスがないと思うのだが……。
徒労感を覚えつつ帰路の電車に乗り、東雲の駅に降り立つ。駅から出て歩き出すと、前方に見知った後ろ姿を見つけた。
「雫さん」
俺の声に振り返ったのは雫だ。
赤のフレアスカート、ベージュの暖かそうなコートを着て、黄色と赤のチェックのマフラーをしている。柔らかな髪は、仕事中はまとめていることが多いそうで、今日はサイドにゆるく三つ編みにしている。
振り向いた彼女が驚いた顔をする。
「高晴さん、やだ、こんな時間になっちゃったんですか?」
時刻は23:30。今日彼女は遅番で、俺はとっくに帰ったものと思っていただろう。
「会議が長引きました」
ラッキーだ。会議が長引いたおかげで彼女と帰ることができる。並んで歩ける。乱入してきた社長たちに心の中でサムズアップする。