愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~
帰り道の電車は帰宅ラッシュでぎゅうぎゅうだ。朝よりはましだけど、やっぱり酸素が薄い。
あまり長時間じゃないことが救いだ。結婚して職場は近くなったなぁ。実家から通っていた頃は電車とバスで1時間以上かかってたもん。

……市川あらため、榊雫。
結婚、そして同居から1ヶ月が経った。
私はつり革につかまり、ふうとため息をつく。

まさか、まだ処女のままだとは思わなかった───!!

本日時点で、私と高晴さんにはなんっっっにも起こってない。
同じ部屋で寝起きし、一緒に食事を摂り、同じ湯船も使うけどそれだけ。

険悪ではない。そこは強調するけど、私たち結構仲良しだと思う。
少しずつ敬語をやめていこうねって話もしてるし、食卓ではそれぞれ会話する努力もあって、気詰まりだったことは一度もない。無口な高晴さんが一生懸命話題を探してくれる姿はちょっと悪いような、でもありがたいような……。表情に乏しいのは相変わらずだから、時々私は『今、怒ってるかな?』とか様子を伺ってしまうことはある。
お風呂あがりや着替えはお互い気を遣いあって、気を抜きすぎた姿は見せないようにしてる。私がだらしない姿を見せたくないっていうのが大きいんだけどね。節度って大事だしね!

私たち夫婦を見て、『気を遣いあってる』状態がおかしいって言う人もいるかもしれない。
でもね、そんなことはございませんよ!
普通のご夫婦なら『気を遣わない』は大前提だと思う。でも、私たちの出会いから結婚を考えたら、今の距離感ってすごーくいい感じのはず。
知らない者同士がお互い未来のために、共に生きましょうって誓い合って暮らし始めたんだもの。
こんなふたりが、気を遣い合わないフランクな関係にいきなり移行できる?
できんわーい!!小学生男女じゃないんだから!!
この程よさが大人の距離の詰め方でしょーが!!

……と、まあ、この持論でいきますと、私と高晴さんが一線を越えてないのは頷ける展開と言えてしまう。
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