愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~
なんて簡単に言うのだろう。日向は俺の恋愛経験が薄いことを忘れているのだろうか。とろとろに甘やかせるような技術を俺は持っていない。

「女は愛されるのが幸せって子が多い。お金に困らない幸せな生活と甘い快楽を提供してくれる男にべたべたに愛されたら、苦労の多い恋愛なんて捨てるわよ」
「そんな器用なことができる自信ない」

小声で答える俺に、日向は大きくため息をついた。

「奥さんを他の男から奪おうって気概はないの?」
「気概というか……気持ちはある。しかし、俺に何ができるか……」

雫を好きな気持ちは本当だし、雫を幸せにできるのは俺だと思っている。だけど雫の恋心を打ち消し、気持ちをこちらに向けられるくらいのパワーが俺にあるだろうか。

「結婚してるからって、アドバンテージが榊にあるわけじゃない。相手の男と気持ちで繋がっている以上、奥さんは榊の元に来てはくれないわよ。家のお金持って駆け落ちしちゃうことだってあり得るんだから」

確かに、俺はまだどこかで『結婚しているのは俺だ』という余裕がある。しかし、日向の言う通りだ。気持ちがこちらに向いてくれなければ結婚生活も虚しいだけだ。俺の片想いなのだから。
破綻だってあり得る。

「努力すべきなのはわかる……。なあ、日向、俺は何から始めればいいかな」
「そうね、風俗でも行ってテク磨いてくれば?」
「最後の最後で適当だな!おまえは!!」

俺が語気を強めると、ケラケラと明るく笑う日向。
相談相手を完全に間違えた!と俺が席を立ちかければ、日向はまあまあとなだめながら言うのだ。

「まあまあ、今日は飲みにでも行きましょうよ!兼広さんや、他にも空いてるやつら連れて!」
「日向、おまえ、俺の窮状を広めて酒の肴にしようって腹じゃあ……」
「見損なわないでよね。榊の悩みは胸に秘めておきます。その方が面白いもん。飲みに行くのは元気のないあんたの景気づけよ!感謝なさい!」

そういうことなら……。いや、かなり失礼なことを言われている気はするんだが。

しかし、久しぶりの飲み会はちょっと楽しそうだ。
今夜は雫も遅番。夕飯は各自の約束だし、明日は土曜で俺は休みだ。たまには飲みに行くのもいいかもしれない。

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