愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~
「まずね、榊の奥さん、好感度超絶アップ!私を“綺麗な人”って言ってくれたから!」

日向のひと言目がそれだった。
俺は脱力し、油じみた木のカウンターに突っ伏した。

「おまえに話すんじゃなかった!!」

マイスター撤回。日向はやはり俺の恋愛で遊んでいるだけだ。
俺が怒りだせば、日向はへらへらと宥めにかかる。

「まあまあ、冗談よ。っていうか、それっていい傾向じゃない」
「は?喧嘩のどこがいい傾向なんだ?」

苛立ちで荒い口調の俺の前にお冷を差し出し、日向が言った。

「奥さん、嫉妬してたわけでしょ。私たち、“榊の同僚”に。『私といるより楽しそうじゃない、キ──ッ!』って」

一応はそういうことになるのかな。雫はそんな風に怒ってはいなかったけれど。曖昧に頷いておく。

「自分のことを棚にあげて嫉妬するヤツって男女ともにいるけど、少なくともそれって相手になんらかの執着があるのよ。奥さんは榊が余所見するのが嫌なんだわ」
「そういうものか?」

うんうんと自分の説に頷く日向。恋愛マイスターっぽくなってきたじゃないか。

「榊の奥さんの浮気説も真偽は定かじゃないんだし、そもそも最初から榊に好意を持って、仲良くしたいって思ってる場合もあるんじゃない?それなら、榊のとってきた態度はよそよそしいわよ」
「そんな、……浮かれさせるようなこと言わないでくれ」
「いやいや、浮かれさせようなんて思ってない。脈ありは朗報だけど、あんたのとってきた態度で彼女はおおいに誤解し、不貞腐れてしまってる。これはバッドニュースでは?」

俺はうう、と詰まった。
そうか、もし雫が俺の10分の1でも俺に好意を持ってくれていたとしたら、俺が避けるような態度をとってきたのも、適正な距離を保とうとしていたことも、水くさく感じの悪い様子に映っていたかもしれない。
さらに、同僚と楽しそうに夜の街にいるところを見られ……。

ピンチだと思いつつ、雫の嫉妬心を嬉しく思う俺が存在している。
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