愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~
通路側の座席にかけ、例の業界専門誌みたいなのを広げて視線を落としている。
高晴さんと私はロマンスカーにのって箱根に向かっている。

高晴さんに旅行に誘われたのは数日前だ。

事の発端は先週金曜、たまたま仕事で行った渋谷の街中、宮益坂で同僚と楽しそうに歩いている高晴さんを発見したのだ。

高晴さんの首に腕を巻きつけてるのは綺麗なお姉さん。
遠目でも長いストレートの髪がサラサラで、コートを着ていたってスタイルがいいのがわかった。
高晴さんの背中をバシバシ叩いている上司っぽい男性もいるし、他にも何人か男性と一緒の様子だから浮気じゃない。わかってる。

でも、私は胸をどすんとぶたれたくらい苦しくなっていた。
高晴さんがとても楽しそうに笑っていたからだ。

私に見せる笑顔はいつも若干の緊張感をはらんでいて、目をそらしてしまうときはちょっと冷たくも見える。
そんな彼が楽しそうに笑っている。酔っているのかもしれない。普段より隙のある笑顔を、私は交差点のはす向かいで立ち止まって凝視した。
眩しかった。足から力が抜けそうだった。

同僚の人たちは私より高晴さんと付き合いが長い。気を許した笑顔を見せるのは当然だ。

だけど、奥さんは私なのに。

自分でよしとしていた彼との平和な距離感をもどかしく感じた。

私たちは円満な夫婦。夫の仕事やそれに伴う空間には立ち入らない。彼は少なくともそうしてくれている。
わかっているのに、胸が重苦しい。気持ち悪い。
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