愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~
改札から出ることなく箱根登山鉄道には乗れる。荷物があるので高晴さんの勧めで一度改札から出てコインロッカーにボストンバッグを預けた。
帰りは登山鉄道を経由しないから、改札の外がいいんだって。あとでしおり見てみよ。

トイレ休憩時にそっと売店でカイロを買い、腰とお腹と背中にくっつける。
スカート履いてきちゃったから、腰回りは厳重だ。今日は本当に寒い!

乗り込んだ登山鉄道は、観光客ですべての座席が埋まっている。ゆっくりと傾斜を走り出せば、窓から見える温泉街。
進む山道の線路はまだくすんだ冬の色だ。もう少しすれば、若芽の淡い緑色に染まるんだろう。桜も時期が早く、民家に梅の花が見えるくらいだ。
車窓から深い谷と流れる急流を見下ろし、旅行にきたんだなぁと感慨深くなる。

急勾配を登る電車は通勤電車に慣れた人間にはものすごくスローペース。三ヶ所のスイッチバックを経て、強羅の駅へ向かう。
強羅に降りるとぷんと硫黄の香りが強く香った。

「ケーブルカーに乗り換えよう」

高晴さんはあまり喋らない。
たぶんこれがこの人本来のペースで、やはり結婚してから無理してたくさん会話していたんだなと実感してしまう。
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