ピノ・ブラン -苦酸っぱい恋の終わり-
がやがやとした雰囲気の中で、祝賀パーティの主賓である教授がスピーチを続けている。
笑い声や拍手を気持ちよさそうにウケながら、教授は終始上機嫌だ。
1人で入って来たけれど、案の定会場には見知った顔がちらほらといて、話相手に困ることも居たたまれなくなることもなかった。
「あら、こんにちは」
その時は、たまたま1人だった。
見慣れた肩までのウェーブの髪をなびかせて小首をかしげる姿は、いかにも清楚なお嬢様だ。
「こんにちは」
元々口角の高い顔立ちが功を奏し、笑顔は得意だ。
「久しぶりね。まだ、お店には良く行くの?」
さりげなくもない詮索にだって、笑顔で対応できる。
「ええ。最近はマスターにワインを教えてもらってるんです」
嘘はついていない。
疑ってマスターに詮索されても、おすすめやお気に入りを仕入れて出してもらっているのも事実なので問題はない。
「珍しいですね。今日は?」
「上司から頼まれてね。場所も場所だし、ハルカくんにエスコートをお願いしたの」
少し流した視線の先には、2人分のグラスを持って近づいてくる彼がいた。
「じゃあ、これから挨拶に行かなきゃいけないから」
彼女の視線の先を共に追っていた私に、彼女は小首を傾げて誇らしげに微笑んだ。
その表情に笑顔を返して彼女を見送っていると、シャンパングラスを差し出す彼の姿もまた目に入った。
普段、シャンパンなんか飲まないくせに。
思わず顰めそうになった表情を必死にこらえて、ビュッフェのテーブルへ向かう。
食べているときの表情ならば多少笑顔が崩れても不自然にはならない。