ピノ・ブラン -苦酸っぱい恋の終わり-
会場に下手側にずらりと並べられたテーブルへ近づくと、見知った顔が集まっていた。


「お、久しぶりの顔がいるもんだな」

その中の1人が私に気付き、片手を上げて近づいてきた。

「お久しぶりで。先輩、教授の門下生でしたね、そういえば」

「そういえばな。教授には?」

「最初に挨拶してきました」


輪から離れて話していると、ボーイが銀のトレイに乗ったグラスを勧めてくる。

その中の白ワインに手を出すと、驚いたように隣の赤ワインのグラスを手にした。


「ワインなんか、前から飲んでたか?」

「最近ですね。前はカクテルばっかりだったんですけど」

「前はって・・・お前成人してから・・・えっと、」


計算している風な素振りに少し笑ってやってから、白ワインを一口飲んでから答える。

この味は、知っている。

この間お店で教えて貰った、爽やかな香りのくせに酸味とほのかな苦味があるワイン。


「今年やっと学生を卒業です」

「まだ大学生だったっけか、そういえば」

「はい、そういえば」


学会所属の学生も色々あるけれど、その中でも私はよく顔を出す方だ。

関係者の覚えも明るい。


「前からだけど、一層落ち着いてるから年を忘れる」

「学生だって侮っていただくよりずっといいです」


でも、本当に年を取ったら若く見積もってくださいね。


冗談めかしてやると、先輩は朗らかに笑う。


「今日はエスコートは?」

「残念ながら。まあ、出来ても学会関係じゃなければエスコートは頼みませんけど」

「それもそうか」


先輩は赤ワインをさっさと飲み干し、次のお酒に切り替える。

少し私の手元をうかがったのは、白ワインの残りを見てくれたのだろう。

弱いわけではないがペースは早い方ではないので、笑顔でグラスを持ち上げた。

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