ピノ・ブラン -苦酸っぱい恋の終わり-

「いい人は?」

「相変わらずです」

「ははは。お前なら選り好みしたってそこそこの男が付いてくるだろうに」

「そこはもう少し侮ってください。選ぶもなにも、選択肢に残るのさえ大変ですよ」

「なんだ、いるんじゃないか」


しまった。

沿う思ったけれど、時既に遅し、だ。


「選んで欲しい相手、か。その様子じゃ苦戦気味なわけか」

「苦戦というか、なんというか」


会場の中にいる限り、きっと自然に目が追ってしまう。

ワインを飲みながら答えると、先輩はまた軽く笑った。


「あ、よう。ハルカ!」

笑っていた先輩が、ビュッフェに近づいてきた彼と彼女に大きく声を掛けた。

思わず声の先へ視線を向けると、2人は軽く会釈をしてから揃って近寄ってきた。



せっかく逃げてきたのに。



そう思いながら笑顔を作り、先ほど振りの会釈をした。


「おいおい、聞いたぜ。お前らやーっと結婚するんだって?」

先輩が、やけに嬉しそうに彼の肩を叩いた。

少し困った顔は、ちょっと面倒くさい顔だ。


代わりに彼女がはにかんで微笑んだ。

「お話早いですね」

「学会でも話題だから。ハルカがやーっと身を固めるって。こんだけ目立つ男、さっさと落ち着いてほしいもんだからな。」

「色々時期を考えていたんです。あ、簡単に披露パーティもやるので是非いらしてくだいね」


やけに綺麗な声が、上品すぎるほどの敬語で言葉を発する。

私に聞かせるつもりなのか、ただ嬉しいだけなのか、その声は弾んでいて大きい。


「もちろん、喜んで。な」


ふいに返事を求められて、一瞬戸惑ってから微笑んだ。


「お邪魔でなければ、是非」


微笑むと、彼女は少し笑顔を濁らせた。

それに気付いたのは、私だけではなかった。


「ナツメ、まだ予定も決まってないんだから」


制止したその言葉は、彼女への気遣いか。

私への気遣いか。



私にはすぐに分かったのに。



彼女はきっと勘違いをした。




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