ピノ・ブラン -苦酸っぱい恋の終わり-
ここまでよく笑っていたと思う。


耐え切れずに体を反転させて入口に向かう。

途中でボーイにグラスを渡して会場の重い扉を開けると、ロビーは中とは比にならないくらい静かで、カーペットタイルを音も立てずに歩く。

「おい、待てって」

手首を掴まれて止まる。大きくてごつい手に掛かれば、私の手首など捻り潰されそうなほどだ。

「選択肢に入るより前に、もう、選ばれてる女がいたんじゃ、どうしようもないんです」



彼は、恋人のいる男だった。


彼女がいても、他の女に手を出す男だった。

だから、私も相手をしてもらえた。


共通の話題をたてに近づいて、なんとか繋ぎとめようとした。

頼めば抱いてくれた。

名前も呼んでくれたし、キスもしてくれた。

でも、頼まなければ何もしてくれなかった。


フラれたのは、二回目に彼を見かけて追いかけていったバーだった。

お酒を何杯か飲んで擦り寄ってみると、彼は冷たい目で私をみた。



俺、あいつと別れる気ないけど。



それでもいいなら相手しようか。

言外にそう言っていた。

悲しいより、悔しかった。

だから、話にのった。



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