よくばりな恋 〜宝物〜
「有名な京都人のぶぶ漬けでもお上がりってヤツね。ごめん、ごめん」
笑いながら返す紅の額を人差し指でついてから空斗がバスルームに入っていく。
「うどん、月見にして」
「了解」
バッグを置いて、空斗が脱いでベッドに置きっぱなしにしているジャケットを手に取りハンガーにかけるとポケットの中でスマホが震えだした。
見たらダメ。
そう頭は命じるのに、出して見てしまう。
画面に表示される『あい』という女性の名前。
震え続けるスマホをまたポケットに戻す。
何ヶ月か前、紅は偶然聞いてしまった。
2人で買い物中、紅がトイレに行っている間、そんなに早く戻ると思わなかったのだろう、空斗が電話で話していた。
「泣くなよ、オレはあいがいちばん好きやから」
後ろから近付く紅に、空斗は気付かない。
だから早鐘のように打つ心臓を落ち着かせるために踵を返し空斗から距離をとる。
あいがいちばん好きやからーーーー。
鍋にうどんだしを作り、冷凍うどんを出す。