よくばりな恋 〜宝物〜
「紅、真っ青。取り敢えず食堂出よっか」
乃里の言葉に辛うじて頷き、覚束無いながらも立ち上がった。両側を乃里と佳代に支えられ、総務部のある階の自販機が置いてある休憩コーナーに連れて行かれる。ベンチに座ると乃里がどこかへ行き、佳代がウォーターサーバーから水を汲んで渡してくれた。
「ごめん・・・折角の昼休み・・・」
「気にせんかてええ」
佳代が黙って背中を摩ってくれる。
今は何も聞かないでくれるのが紅には有難い。
暫くすると乃里が帰ってきた。
「総務課長、席にいてはったし紅が体調崩して帰らせたいんですけどって言うたらあっさり許可くれはったわ。もう今日は帰ってゆっくりし」
「ありがとう、乃里」
「わたしも一緒に帰ろうか?」
「ええよ、そんなん。1人で帰れるよ。ありがとう、佳代」
お水を一気に飲んで立ち上がり、元気そうなフリをする。
何でもない、こんなこと。
何度も釣り合わないって他人から言われた。
ただ
あの人が
あの綺麗な人が
空斗の「あい」だったことに傷付いただけーーー。
それだけだから。