よくばりな恋 〜宝物〜
出てきたのはやっぱり同期の2人で、「彼女が具合悪くて介抱してた」と男の子が言い訳をして、女の子の背中を押すように部屋に戻って行った。
自分もあんな風に声をかけたら良かったんだと、今更のように思い至り、紅は軽く自己嫌悪になる。
「水沢さん、誰か来たら追い返せるようにドアの前に立ってた?」
「びっ・・・びっくりして、誰にもバレたらあかんてそればっかり考えてました・・・」
紅は胸を撫で下ろした。
「水沢さん、あんまり免疫なさそうやね」
揶揄うように空斗が紅を見る。
「いやあーーーー、自分の経験がないのに人のを目撃してしまうってなかなかレアな・・・」
と言って紅がハッと口を押さえた。
恐る恐る空斗に視線を向けると、大きな手を口にあて、必死に笑いを堪えていた。
「〜〜〜〜〜っ、笑ったらええやないですか」
ぷうっと頬を膨らませた紅がそっぽを向く。
真っ黒で真っ直ぐな肩甲骨あたりまで伸ばした髪、黒いセルフレームの眼鏡、細いと言えば聞こえはいいがメリハリに欠ける身体。