嘘ごと、愛して。
自ら話し掛けられるような話題もなく、後ろの席を振り返れなかった。
冷たい目をして、拒絶されることが怖い。
こんなことなら、綺麗な思い出のまま終わらせた方が良かったね。
私が代わりに、百瀬楓さんに謝れば、時間が解決してくれるのかな。…せめて、それだけはやっておこうかな。
椅子からそっと立ち上がる。
「あ、」
「お前……」
廊下を通りかかった裕貴と目が合った。
「裕貴…」
急に、ホッとした。
自然と駆け足になって裕貴に近付く。
「今日は休むって聞いたから、驚いた」
「うん……」
「どうしたの?」
さすが幼馴染。
少しの変化にも敏感だ。
「今日、学食で一緒にご飯食べよう」
「裕貴…」
変わらない幼馴染に安心する。
「邪魔」
背後から声がした。
振り返らなくても分かる。
大好きな声だ。
「入り口でボサッと立ってるなよ」
すこぶる機嫌の悪い正義の苛立ちが伝わる。
「…そんな言い方しなくて良いだろう」
裕貴が私を庇うように、正義を睨んだ。