嘘ごと、愛して。

駅前からバスに乗る晴人さんと、ロータリー前で別れる。

「近いうちに君と真凛と、僕と正義で。一緒に出掛けられたらなって思うんだ」

「晴人さん…」

切れ長の瞳と目を合わせることができなかった。


私は、そんな風に思えない。

村山志真として正義に会うことはないだろう。




私が百瀬さんに謝りたいと言った時、
晴人さんはごく自然に言ってのけた。

"あの写真のことで?ーー俺も前から知ってた"


裕貴との写真を見ても尚、真凛と向き合おうとする晴人さんはとてもとても強い人なんだ。


けれど、私は、そんなに聞き分けのいい女にはなれない。


「晴人さん、私、明日から通うの止めますね」

「君がそう決めたなら」

「身代わりになっても何の役にも立てなかったけど、私には人の気持ちを弄ぶ真凛を庇うことはできません。自業自得だとも思ってます」

「君が気にするようなことではないよ。本来はこんなやり方、認めてはいけないんだ。みんなに嘘をついて君も傷付いただろう」


晴人さんは真凛だけでなく、私のことも心配してくれている。

優しすぎるよ。


「私は大丈夫です」


晴人さん、


「本当にありがとうございました」

「こちらこそ。ありがとう」


握手を交わす。

正義よりもほっそりとした白く綺麗な手は、とても温かかった。

そしてサヨナラは言わず、
バスに乗る晴人さんを見送った。

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