嘘ごと、愛して。
そうだ、駅のご当地物を取り揃える売店で温泉の素を買ってきたんだ。
疲れた身体を休めるためにはもってこいのアイテム。
携帯をソファーに置いて、お風呂場に向かう。
真凛は几帳面だから、隅から隅まで掃除しないと気が済まないんだよね。
「真凛、温泉の素を買ってきたよ!」
洗面所から声を掛けるが、水を流す音でかき消されているようで返事はない。
扉を開けようと手をかけた瞬間、聞き覚えのあるメロディーが洗面所に響いた。
「あ、真凛の携帯」
懐かしいそのメロディーに耳を傾ける。
ああ昔よく真凛と聞いたロックバンドのものだ。
洗濯機の上に置かれた携帯の画面を覗き込む。
やっぱ好きな音楽はいつ聴いても良いよね。
「裕貴からだ」
ディスプレイに表示された幼馴染の名前。
本来だったら携帯を取り、真凛に渡していた。
けれど相手が、裕貴だったから、
お風呂掃除してるの、そう伝えてあげようと思った。
ーー深く考えもせずに、
ーーーー通話ボタンを押した。
『真凛!出るのが遅い!!』
けれど電話の向こうで、
それはそれは凄い剣幕で、
真凛の名前を呼ぶものだから、
私は何事かと、言葉を失ったんだ。