嘘ごと、愛して。
真凛の腕を引いて立ち上がる。
「真凛、」
妹が口を閉ざした理由は、
ただただ大切な人たちを傷付けたくなかったからだ。
「真凛の好きな人、教えてよ」
わざと明るい声を出す。
上手く笑えていないかもしれないけれど、それでも口角を上げてみる。
暗い顔をしてたって、何も始まらない。
「…こんな時に?」
妹は少し怪訝な顔をしたけれど、ぐいぐい引っ張ってリビングのソファーに座らせる。
「こんな時だからこそ、聞きたいの」
妹の身代わりをして真凛を助けた気になっていたが、ただの思い上がりに過ぎなかった。私は真相に何一つ近付けずに、裕貴に同情すらしていたのだから。
「ずっと晴人が好き」
「正義は?」
「ーー晴人以外の人を好きになったことなんて、一度もないよ。晴人は私の初恋の人で、今でも一番だよ」
その答えに、心の底からホッとした。
ああ、妹の好きな人を、愛したわけでなかった。
だからといって正義とどうこうなれるなどと、甘い考えを持ち合わせてはいない。
それでも妹の好きな人を後から好きになった罪悪感から解放されたのだ。
「それじゃぁ晴人さんに全てを話そう」
頭のいい人だ。
きっと、私たちを救ってくれる。
「晴人を巻き込みたくないって、そう言ってるでしょ」
「けど、真凛は!私が身代わりになってること、晴人さんに報告したよね!?巻き込みたくないと思いながらも、助けを求めたじゃない!」
矛盾する心。
助けてと中途半端に伸ばした手。
その震える手を、受け止めてくれる人がいなければ、戦えない。
大切だった幼馴染と、向き合うために、
真凛を支えてくれる人が必要なのだ。