嘘ごと、愛して。
「もう一口食べていい?」
「ダメに決まってるでしょ」
彼に背を向けてパンを食べる。
間接キスなんて駄々をこねたら、恋愛経験豊富な正義に鼻で笑われそう。
意識しないように、黙ってパンを食べているのに、そんな私の右肩に腕を乗せて寄りかかってくる。
「このまま授業サボっちゃう?」
「そんなことだから、留年なんでしょ」
「あ、良いこと思いついた!」
嫌な予感。
そもそも妹の身代わりだとバレないようにひっそりとした学園生活を送りたいだけなのに、どうしてこんな目立つ奴と関わらなきゃいけないの?
「村山が俺に勉強教えてよ」
「は?」
「決まりー!そして俺たち、一緒に進級しよ!」
「……」
一緒に進級ね…。
進級はしない。
両親との約束は、夏休み前までの入れ代わりだ。
9月、二学期を迎えるまでに妹が登校の意志を示さなければ、学校は辞める。
妹が登校しても、しなくても、
私はいなくなるーー
この人に、サヨナラを言えないまま、
私は、消える。