嘘ごと、愛して。
そして話は、あの雨の日なる。
「3月21日。あの日、楓に映画に誘われたの。下駄箱に手紙が入ってて、一緒に映画でも見て仲直りしたいって。想いが届くように手紙にしたって」
百瀬楓ちゃん。
真凛の親友。
「手紙には待ち合わせ場所と日時、そして、クラスの子に知られたら冷やかしに後をつけられそうだから秘密にしよう。って、書かれてた。もちろん、私は誰にも言わずに翌日、待ち合わせ場所に行ったの」
「そこでーー待っていたのが、裕貴だとも知らず」
逃げられなかった、真凛は呟くように言う。
精一杯のお洒落をして親友との仲直りに向かった真凛の心の折れる音が聞こえた気がした。
「彼は強引に私を劇場の椅子に座らせ、そして逃げれば晴人を傷付けると言ったの。その目は怖いくらい、本気だった」
晴人さんがそっと真凛の手に触れた。
言葉はなかったけれど、真凛の強張った顔が少し緩む。
「愛する恋人を奪われた男が復讐に燃える映画を見させられた後、食事に行ったわ。なにも口をつけられなかったけど。そしてショッピングモールをただ無言で歩いてーー腰に回された裕貴の手に気持ちが悪くて仕方なかった。少しも楽しそうじゃないね、って裕貴は嫌味を言った後、ハルのお兄さんのラーメン屋に向かったの」
「それだけは嫌だった。裕貴と一緒に居るところをハルに見せたくなかった。こっちの気持ちなんかお見通しのように、おかしな態度をすればハルを呼ぶって言われたから、従うしかなかった」
もう真凛の顔を見れなかった。
なにも知らなかった、誰よりも傷ついていた真凛の気持ちを知りもせず、
裕貴のお母さんの誕生日会に参加しようと提案するなど、なんて馬鹿げたことだったのだろう。