嘘ごと、愛して。

きっと裕貴はちゃんと、理解してる。
真凛の気持ちが自分にはないということを。
それをただ受け入れられなくて、駄々をこねているだけだ。


昔、お母さんが言っていた。
私たちの父は、裕貴のお父さんの子会社で働いていると。

裕貴もそのことを知っているはずだ。

裕貴のお父さんから縁談を迫られれば、両親は喜んで真凛を差し出すだろう。
完璧な裕貴を前にして躊躇う理由などひとつもない。

それでもそういった根回しをせず、直接、真凛に想いを伝え続けた裕貴は、
真凛の"心"が欲しいのだ。

真凛に愛して欲しいのだ。


「今は君が好きでも、必ず心変わりするはずだ」

確信をもっているのか、裕貴ははっきりと言い切った。

「…その時を君が待つと言うのなら、それでいい。けれど真凛が望まないことはしないで欲しい。もう真凛を傷付けるようなことは止めてください」

「否定しないんだね。真凛の心変わりを」

「私にだって、無理矢理に真凛を縛る権利はないから」


2人の優しさの形が違う。
強引に攻める裕貴と、一歩引く優しさをもつ晴人さん。


「もう無理矢理に真凛を誘うようなことはしないで。彼女が普通の生活を送れるように」


晴人さんの主張は、真凛のことだけを考えたものだ。


私はもっと、違う話し合いを想像していた。

裕貴から真凛を引き剥がすような、そんな交渉を。

けれど晴人さんはただ、真凛に今までの生活に戻してあげたいだけのようで。

誰が真凛を幸せにするのかという色恋沙汰は二の次だ。

心から晴人さんは真凛のことを想ってくれているーーそう実感した。

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