嘘ごと、愛して。
裕貴は虚ろな目で言った。
「小さい頃から真凛は当たり前のように隣りにいたんだ。今更、離れることもできないし、君のようにある日突然やってきた男に、渡すなんて絶対にありえない」
顔を上げて横にいる晴人さんを見つめれば、彼の目は真っ直ぐ前を向いていた。凛としたその表情に迷いはない。
「君には僕の気持ちが分からないだろうね。真凛に愛されている君には」
苦しそうに吐き出された言葉。
真凛が誰を愛しているかを理解しているからこそ、辛く、許せないのだろう。
「確かに私に安堂くんの気持ちは分かりません。けれど一度は真凛に振られ、人生のどん底に突き落とされた。想いが叶わなかった痛みは理解しているつもりです」
「真凛といる時間が長い分、僕は君の何倍も痛いんだよ!」
吐き捨てるように裕貴は言う。
ほんの一瞬、裕貴と目が合ったが、彼は気まずそうに逸らした。
「これから何十年と僕はこの痛みを抱えていかなければならないというのに、君は真凛と笑って生きていくのか?そんなの認めないーー法的手段を取りたいのなら、そうすれば良い。例え犯罪者になろうと、僕は真凛を手放さない」
ああ、無理だ。
こんなにも真凛を一途に愛し続けている裕貴を止めることは不可能だ。
世の中は浮気や不倫といった言葉で溢れかえっているのに、どうして一途な恋愛で傷つけ合わなければならないのだろう。
結局、みんなが納得できる道なんてないんだ。
全員が幸せになれる道なんてあるはずがない。
それでもまだ晴人さんは諦めていないようで、
「それならば、」と言った。
「その痛み、一緒に抱えて生きていこう。私も、同じ痛みを背負います」