嘘ごと、愛して。
「私も真凛を諦めます。だから、安堂くんも真凛を諦めるんだ」
突拍子もない晴人さんの主張に、場の雰囲気が変わる。
「ずっと考えていたんだ。どうしたら貴方を説得できるか。けれど答えはなかったーーそれならばいっそ、2人で真凛から離れればいい」
「自分がなに言ってるのか分かってるのか……」
「私は君だけに不幸になって欲しいと頼んでるわけでないよ。一緒に不幸になろうと提案してるんだ。失恋の痛みを背負って、真凛が他の誰かと幸せになるのを見ながら、苦しい日々を生きようと言ってるんだ」
「…そんなこと……」
「少なくとも今の真凛は私を好きでいてくれている。想いが通じ合っているのに別れを告げなければならない私も相当、痛いよ。長年、真凛を想ってきた君の痛みと同等かは計り知れないけれど、真凛を手に入れられないという点では平等だ」
「そんなこと真凛は望んでない!」
ここに来て初めて口を挟んだ。
「君は黙って!」
いつも穏やかな晴人さんの怒鳴り声。
今が一番、口を挟んではいけない場面なのだろう。
それでも真凛の気持ちを思うなら、止めなければ。晴人さんの馬鹿馬鹿しい提案を、止めなければーー
助けを求めるように正義を見れば、いつの間にかベッドに横になり、目を閉じていた。