嘘ごと、愛して。
磨かれた床に水滴が落ちる。
今日はもう涙を止められそうにない。
「それで、いつまで待てばいい?まぁ安堂くんが真凛に近付かないと約束してくれるのなら、答えなんて一生、出さなくていいんだけどね」
「………」
裕貴は口を閉ざした。
返事を急かすことなく晴人さんは待つ。
泣き始めた私に気付くと、そっとハンカチを差し出してくれた。
その目は、少し潤んでいて。
それでも私を安心させるために微笑む晴人さんを見て、声を上げて泣いた。
晴人さんの分まで、泣くことしかできない。
しばらく、部屋には私の嗚咽だけが響いた。
「ティッシュもどうぞ」
今度は裕貴が箱ティッシュを手渡してくれた。
声にならないお礼を言いながら、素直に受け取る。
滲む視界で裕貴を見れば、彼の口元は笑っていた。
「晴人くん、やっぱり僕には答えを出せそうにないよ。でも、この答えが出るまで、真凛に近付かないことを約束する。だから、安心して学校に来てと伝えてくれる?」
「……」
「…心配しなくても約束は守るよ」
「分かった、伝えるよ」
晴人さんから安堵の溜息が漏れる。
おもむろに裕貴は立ち上がって、勉強机から携帯を取った。
「真凛が嫌がらせの対象になったあの写真も、削除する」
2人のキスシーンがおさめられた写真は、私たちの目の前で削除された。
正義の出番はなく、静かに、
話し合いは終結した。