嘘ごと、愛して。
指切りを終え、裕貴は扉を静かに閉めた。
残された私たちは微笑み合う。
「ありがとう」と、晴人さん。
「私の方こそ、ありがとう」
「君がいてくれて良かった」
「口を挟むなど言われていたんですけど……あれ、正義は?」
気付く。
晴人さんの隣りに立っていた正義の姿はいつの間にか見当たらない。
「家に帰って寝るって」
「え?」
「追いかけたら、間に合うかもよ」
「正義、絶対に怒ってますよね」
裕貴に"志真"と呼ばれた私を見て、何を思っただろうか。
"真凛に似た姉"であると、他人行儀な認識だったろうか。
今日の話し合いの内容だってちんぷんかんぷんだったに違いない。
「相当、怒ってると思うよ」
人ごとだと思って。
なんですか、その笑みは…。
「晴人さん、」
「うん?」
「解決しましたし、正義に全てを話してもいいでしょうか」
サヨナラを言わずに別れようと思ったけれど、
もう悪者はいない。
打ち明けても、正義を傷付けることにはならないよね。
しばらく一緒に居たのが、姉の方だった事実に打ちひしがれるかもしれないけど。
「正義って、女の子のことは大抵、下の名前で呼ぶんだ」
「…知ってます」
甘ったれた女の子の声に応える時、正義は彼女たちを下の名前で呼び捨てにしていた。
「真凛のことも、名前で呼んでたよ」
「え?そうでした?」
私の記憶が正しければ、名前で呼ばれたことはない。晴人さんが真凛を好きだから遠慮しているのかと、思っていた。