嘘ごと、愛して。
「やっぱり真凛のことは、名前で呼んでませんよ。"アンタ"が多かったけど、たまに"村山ちゃん"とか」
晴人さんは首を横に振った。
「真凛って、ーー入れ代わる前は、呼んでたよ」
入れ代わる前?
「正義にとって名前で女の子を呼び捨てにすることに、何の意味もないから。自分が鈴木という名字で、名前で呼ばれることに慣れてるからだろうね。名前で呼ぶことイコール、親しい関係という意味ではないんだよね」
「……」
「真凛を名前で呼べない理由、あったんじゃないの?」
「どういう意味ですか」
訳が分からない。
いつも噛み砕いて私にも分かるように丁寧に説明してくれるのに、今日の晴人さんは意地悪だ。
「だって、入れ代わった後の君は、"真凛"ではないからね」
「はい?」
そんなの当たり前だ。
入れ代わっているんだから、私は、"真凛"ではない。
私は、真凛ではないから、
正義は名前を呼ばなくなってーー
え?
待って、
ちょっと待ってーー
え、え?
「正義が入れ代わった後の私を名前で呼ばなかった理由って、」
嫌な汗をかく。
「私が真凛でないことを、知ってたからですか?」
「さぁ、私に聞いても分からないよ。本人に確認してみたら?」
晴人さんからふってきた話題なのに、彼は掌を左右にひらひらさせた。
混乱すると私の右肩を叩いた晴人さんは、いつもの穏やかな表情だった。