嘘ごと、愛して。
家に戻るのならば、真っ直ぐ駅に向かうだろうと、住民のみが知る抜け道を走り、駅まで最短ルートで目指す。
駅前の歩道橋で正義の姿を見つけた。
「正義!」
ポケットに手を入れて歩きながら、音楽プレーヤーで何か聞いているようだった。
突然肩を叩いて驚いても申し訳ないので、階段を降りる正義の後に続く。
無我夢中で追ってきたが、なんて言おう。
乱れた息を整えながら考える。
あっ…
ポケットから正義が取り出した携帯には、あのクマのストラップが付いたままになっていて、一歩を踏み出す勇気を貰えた気がした。
「正義、」
正義を追い抜かして、彼と向き合う。
「よお」
携帯を持っていない方の手を上げて、正義は笑った。
「見送り?サンキュ」
「…聞きたいことがあるの」
「ん?」
イヤホンを外して正義は足を止めた。
ううん。
まずは質問の前に私が真凛でないことを、きちんと伝えないと。
「…私は、真凛の偽物です」
「あ?」
あれ?
やっぱり気付かれてなかったのかな。
正義の面倒臭そうな返事に、戸惑う。
「わ、わたしーー」
逃げちゃダメだよね。
せっかく真実を伝えても問題のない状況になり、謝ることができるのだ。
この機会を逃したら、次いつ会えるかなんて分からない。
「私は、真凛の双子の姉なんです」
やっと、言えた。