嘘ごと、愛して。
ベンチに座っていた女子は、声にならない声上げて泣いていた。
次から次へと溢れ出し、頰に垂れる無数の水滴。
床に水溜りができてはいないかと心配になる程、彼女は泣き続けた。
彼女からは死角になる位置に隠れて、じっと考える。
受験はまだ始まったばかりだと冗談まじりで話し掛けられるほど、無神経な人間ではない。
…あれ。
視力が良いせいで、気付いてしまった。
横顔だけでは確信は持てないが、
いつかの写真でみたあの子に似ていた。
まさか。
確かに晴人の彼女に似てはいるが、
一枚の写真だけで判断できないし、なにより晴人が傷付いた彼女を放って帰るはずがない。
人違いか。
ぽろぽろと溢れ出す涙。
身体の水分が全部、失われてしまうのではないのかと思うほどに長く泣いていた。
涙の止め方を知らない赤ん坊のように大声で泣き叫べば楽になれるのかもしれないが、
彼女は声を殺して泣いていた。
これが大人になるということか。
もう子供ではいられない。
義務教育だって終わったしな。