嘘ごと、愛して。

翌日、教室に一番乗りであろう晴人と話すために早めに学校に着いた。

想像通り窓際の席で、小説を読んでいる晴人を見つけた。


伏し目がちになり、窓からの風でなびいた金髪が無駄に色気を放っていた。

女子からの晴人の影のあだ名は"金髪王子"だ。
知性溢れる落ち着いた話し方をして、真面目な印象を受けるにも関わらず、金髪というギャップがたまらないらしい。


「正義、早いな」


開け放たれた扉の前に立つ俺に気付いた晴人に声を掛けられ、手を挙げてそれに応える。


「あー。朝からさ、なんでお前がモテるのか分かった気がするわ」

「ん?意味が分からないよ」

「昨日どうだった?」

「どうって?カフェでお茶して、ストレス発散したいっていうからボーリングに行ったよ」


晴人の前の席に座る。


「あの後、校舎で晴人の彼女に似た女を見た気がして。人違いだったら良かった」


「良かったって?」


本に栞を挟み、晴人は顔を上げる。


「泣いてたから」


腕組みをして晴人は頷いた。


「うーん。もしかしたらその子、真凛の双子のお姉さんかも」


「双子の姉か…」


晴人の彼女の姉貴なら、まぁ全く関係ないというわけではなかったんだな。


「声掛けたの?」

「さすがに無理だったわ。」

「そうだね、見なかったことにしようか」


いや無関係でないと分かっていても、俺はアンタに話しかけられないだろう。陳腐な慰めの言葉しか、安っぽい笑顔しか、俺は届けられない。


「それにしても、正義が誰かに興味を持つなんて珍しいね」


「さすがに泣いてたから気になるわ」


誰かに声を掛けられることも、
遊ぶことも、頼られることも、
嫌いじゃない。


けれど自分から誘うことはほとんどない。


深く関わることは、ひどく面倒くさいから。



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