嘘ごと、愛して。
「なにがおかしいんだ!」
今度はこちらにスリッパが飛んできた。
冷静な晴人が俺のために感情を高ぶらせていることが、たまらなく嬉しいのだ。
「真凛のわがままに付き合ってあげますか」
「正義、君はそれでいいのか?もっと真剣に考えてみてからーー」
「ハルトー、お腹減った」
「はい?」
「夜食頼む!腹が減っては戦はできない!」
もう重い話はいいや。
何も知らない2人が話していても、真相は明らかにならない。真凛が口を開かなければ、何も知ることはできないんだ。
それならばーー、せめて今だけは笑っておこう。
新学期、村山志真が現れるのであれば、進んで彼女のサポートをしよう。
あの時のように、泣かせることだけはしない。
「………インスタントラーメンにしようか」
こちらの意図を読み取り、晴人が腕まくりをしながら立ち上がったので、その背中に飛び付く。
「ちょ…、正義、重い!離れろ」
「俺、塩!」
「分かったから、離れろ!マジで!…おい!」
晴人の脇腹をくすぐる。
大きな口を開けて笑う晴人は俺から逃れようと必死だが、こちらも負けてはない。
華奢な晴人に力で負けるわけねーし。
「正義!」
「いてぇ!お前、グーで殴ったろ!!」
「いいから、離れて!」
台所の時計が深夜1時を指していたが、
構わず、笑い合った。