嘘ごと、愛して。
「どうして急に冷たくなったの?」
私が真凛でないと知っているのなら、愛想をつかされる心配もないわけだ。
「あの時は真凛が二股かけてたとアンタが信じてたから、妹に裏切られてまで身代わりをする必要もなくなったわけで。冷たくすればもう学校に来なくなるんじゃないかと思った。ーー俺はアンタにはアンタの人生を生きてもらいたい。まぁそれが普通のことなんだけどな」
「結構、傷付いたよ」
理不尽な抗議だと分かっているけど。
「写真のこと、知ってたの?」
「あの写真が流出した時に真凛に問い詰めた。あいつは事故だと言った。通行人に押されて思わず裕貴に抱きついて唇が当たったと。俺と晴人は信じたよ、まさか無理矢理されたなんて考えもせずにーー幼馴染は盲点だった」
灯台下暗しとはこのことか。
もっと早くに気付くべきだったのに、誰も裕貴を疑わなかった。晴人さんでさえ、真凛の嘘を信じたというのだ。
「思うことも色々あるだろうが、今は生徒会長の言葉を信じるしかない。俺の態度がアンタを傷付けたって言うのも、忘れて欲しい」
正義は困ったように笑って、携帯電話を取り出した。そこについたクマのストラップ。
「…色々、ごめんな」
テーブルに額をつけて謝る正義を前にしても、現実味がない。
私はもう正義の前で、村山真凛を演じる必要はないの?
村山志真自身として接してもいいのだろうか。
ひどく退屈でつまらない女なのだけど。