嘘ごと、愛して。
「もしも俺を許してくれるんなら、自己紹介して」
「自己紹介?」
顔を上げた正義は白い歯を見せて笑う。
「この店を出たら俺たちは他人だ。出逢ってもいないし、俺たちは互いのことを知らない。もしアンタがもう一度、俺と付き合ってくれるんならさ、声掛けてくれよ。本当の名前、教えてくれよ」
「本当の名前…」
「もう二度と関わりたくないと言うのなら、声を掛けないでくれ」
「…そんなの……」
「もう二度と会わない方の選択を選んだ時用に付け加えるけど、この喫茶店を出るまでは俺たちは友人だから。なんでも聞いて。アンタの疑問に全て答える」
どこまでも正義のペースだ。
いつもいつもそのペースに乗せられて迷惑しているはずなのに、むしろ嬉しいからびっくりする。
その強引さの中に、いつだって"優しさ"が含まれていて、親友と親友の彼女のために、
彼はーー留学を断念したんだよね。
「私の方こそごめんなさい。貴方の時間を、削ってしまった。今頃、渡米しているはずなのにね」
この数ヶ月、私が私自身の人生を歩めなかったように、正義もまた自身の欲を捨てて、日本に残ってくれたのだ。
有限である時間を、私たち姉妹のために使ってくれたんだ。
「本当の犠牲者は、正義だと思うの」