嘘ごと、愛して。
ホームルーム開始のチャイムが鳴り、担任と同時に正義は教室に駆け込んで来た。
「やばっ、間に合った」
「またお前か」
生徒名簿で頭を叩かれながら騒々しく登校する正義にみんなが笑っていた。
横を通り過ぎる時、いつものように目が合う。
そしてホームルームが終わると宿題を写させてくれと声を掛けられることも日課だったが、今日は違う。
昨日、ファミレスで宿題を終わらせたから。
勉強会というよりも時々雑談を交えながら、各々宿題を解いていた。
私、居る意味あった?
「なぁ、」
「なに?」
宿題は終わっているはずなのに、トントンと肩を叩かれる。
「なんか食うもの持ってる?朝ご飯食いそびれた」
「また寝坊?言っておくけど、昨日のチョコは全部食べたよ」
「太るぞ」
「美味しかったから、いいの」
バッグを開けて何か入っていないかと探す。
あ、飴玉がーー
大粒のそれを渡そうとすれば、彼の机に綺麗な箱が置かれた。
「正義くん、クッキー作ったの。良かったらどうぞ」
クラスの女の子(名前は思い出せない)が、横から入ってきた。
なんか良い香りがする。
クッキーのように甘い香りは彼女自身から漂っていた。ここにも女子力発見。
「あー、アメで大丈夫。美香、気遣いサンキュー」
相変わらずの笑顔で、美香さんにクッキーを返して、乱暴に私の手から飴玉を奪い取った。
はっ?あげるって言ってないし。
それに、美香さんからの視線が怖いのですが…。
「正義くんって、最近、真凛と仲良いよね」
「そう?」
飴玉を包み紙から取り出すと、正義は白い歯を見せてまた笑う。
「美香とも、仲良いでしょ?」
「あ、うん…そうだよね!」
正義の笑顔に騙された彼女は、嬉しそうに微笑む。
「でもなんで、クッキー」
「俺、あんま甘いもの好きじゃなくて。ごめん」
なんだ、このやり取り。
疎外感を感じた私は前を向いた。