嘘ごと、愛して。


「あれ?否定しないの?」

「入れませんよ、ラブレターなんて」

「それは残念。ほら、早く履き替えて」


正義はトントンと下駄箱を叩いたが、その場所には"村山真凛"と記載されたテープが貼り付けられていた。


助かった…。



裕貴から借りたいくつかの写真で生徒の顔と名前を予習してきたが、不安はある。
記憶の中の鈴木正義を思い出す。写真で見るよりもずっと、実物の方が素敵だった。


上手く言えないけれど、写真より何倍も目力が強く、その笑顔は温かい。


「俺たち同じクラスだって」


「そうなんだ」


良かった。
真凛が戻るきっかけになるかもしれない。好きな人と同じクラスなんて、運が良いよ。


「あ、そういえば、携帯新しいの買ったんだ。もう一回アドレス教えて」


「わ、私もアドレス変えたの!」


両親は新しい携帯を買ってくれた。
村山真凛として、私が使う携帯を。


お互いに相手の携帯に連絡先を打ち込む。


「よし、登録完了」

「ありが…」


携帯を受け取ろうと伸ばした手を、軽く掴まれ、


「困ったことがあったら、いつでも電話しな」



真剣な表情で、
優しい言葉をくれた。




今まで受けたどんな気遣いよりも、胸に響いた気がして。…どうしてだろう。

今日、出逢ったばかりの人に。




ううん、騙されちゃダメだ。
調子の良い言葉を真に受けて、恥をかきたくない。


「ご心配なく!」

彼から離れて答える。

そうだ、村山真凛として生きる以上、
適度な距離は保つべきだ。


過度な干渉は己の身を危うくするだけだと、裕貴も言っていた。


学校生活において頼って良いのは、裕貴だけなんだ。


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