嘘ごと、愛して。

妹は身に起きていることを晴人さんには話さず、正義に助けを求めていたようだ。

面倒ごとに晴人を巻き込みたくない女心と、嫌がらせに負けるかという真凛の強い意志。
しかし結局それらはズタズタに切り裂かれて、別れを選んだというわけだ。


「それじゃぁ、学校を休んでいる理由も嫌がらせ…?」

「それは違うと思う」


きっぱりと晴人さんは否定した。


「嫌がらせの理由は私だった。私をアイドル視していた女子グループたちの仕業だったから、別れた時点でイジメはなくなった。直接、本人たちを問い詰めたから確かな…」

「問い詰めたところで、本当のことを言うわけないわ」

「いや、それなりの仕返しはしてやったんだ」

「どういうこと?」

「女同士のイジメなんて、陰口や軽い暴力だよね。でもそこに男が加わったら、なんでもできる。男の力に敵うわけないし、それこそ性犯罪でも」


「…最低です」


晴人さんには似合わない。


「うん。最低だねー、信じた?」


「からかいましたね」


睨みつけたい衝動に駆られたが、その美貌を直視することは勇気がいるので止めておいた。
これだけの男、確かに世の中の女性が放っておくわけない。


「うちの両親って結構やり手の弁護士だから。裁判起こして一生、暗闇で生きていくか、って脅しただけ。100%彼女たちではないと言い切る根拠はないけど…でもまだ嫌がらせが続いているのなら入れ代わった君にも同じことをするはずだ。突然、嫌がらせが止むとは考えられない」


「確かに…」


登校しても仲良しグループの女の子達どころか、女子生徒の誰からも話しかけられない理由はそういうことか。
学校という狭い世界には、簡単に情報が広まる。


「私も目星がつかず、焦ってる。真凛に助けを求められた翌日に連絡したが、既に着信拒否にされてた」

助けを求めるだけ求めて、関わりを絶ったとはいえーー妹は、他の誰でもない、晴人さんを頼ったのだ。

きっと、別れを告げてからずっと、
後悔しているに違いない。

助けたい。




「携帯、鳴ってる?」


微かにバイブの音がして、バッグの中で携帯が振動していた。


「…続けてください」


「出ないの?」


ディスプレイに表示された、正義の名前。
アドレス交換をしてから、初めて連絡が来た。


けれど今は晴人さんと話すことの方が重要だから。
また後で、ね。


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