嘘ごと、愛して。
〜side 晴人〜①
財布をバッグにしまいながら、店の外に出る。
4月だというのに、まだまだ肌寒い。
冬の日、真凛と手を繋ぎ、温もりを分け合った。
2人なら、少しも寒くなかった。
今は、寒すぎて…。凍えそうだ。
「1時間ちょうだいって言ったよね?」
壁に寄りかかり、本を読む男に声を掛ける。
「まだ40分」
真凛が誕生日にプレゼントしてくれた時計に目を落とす。
君の時間は止まったままなのかな。
「遅せぇよ。そもそも許可した覚えはないよ」
パタンと分厚い本を閉じながら正義は耳のイヤホンをはずした。
「くそ寒い」
「ご愁傷様」
鈴木正義。
私の親友でもあり、元カノの友人。
黙って彼女に会うことがなんとなく悪いような気がして、事前に正義に連絡を入れておいた。
「なに話してた」
「色々」
「だから、どんな色々なんだよ」
正義の手にある本には有名書店のロゴの入ったカバーがつけられていて、そのタイトルを知ることはできない。
けれどそのジャンルは把握できる。
英会話、英単語。
そんなところだろう。
いつだって正義は英語に力を入れていて留学すると決まった時、両親の傍に行くことができると喜んでいた。
「それは秘密。ほら、早く行ってあげたら?」
「電話無視されてるんだよ、行けるわけねぇだろう」
腕組みをして私を睨み付ける正義が少し気の毒に思えた。例え寒空の下、何時間待つことになっても、正義は根気よく耐えるだろう。
誰かのため、そういう生き方ができる奴だから。
「正義になら、真凛を譲ってあげても良いよ」
自然に出た言葉。
自分でも不思議だった。
私たちの時間はもう戻らないかもしれないけれど、真凛には幸せな道を歩んで欲しい。
「譲る気もないくせに」
「正義が本当に真凛のことを好きならーー」
大好きな真凛と、大切な正義と。
2人の幸せならば、時間はかかっても受け止められる気がした。
「好きになるはずないだろう、親友の好きな女を」
「最初から恋愛対象にねぇよ」と言った正義は少し苛立っていた。
不甲斐ない親友に対しての怒りだろう。