嘘ごと、愛して。
宿題を見せて欲しい、そうせがまれるかと身構えていたが正義はずっと机に伏していた。
時折咳払いの音が聞こえる。
「トローチ食べる?」
もしかして喉が痛いのだろうかと、先生が板書をしている隙に聞く。
「あー大丈夫」
正義が少し顔を上げてくれたが、心なしかその顔は赤いように見える。
「なんか熱っぽくない?」
「馬鹿は風邪引かないから大丈夫」
そう言いながらも鼻水も啜り出した。
いつものような威勢の良さはなく、気だるげだ。
「保健室行ったら?」
「村山ちゃんが連れて行ってくれるなら」
「ひとりで行けないの?」
駄々をこねる子供のようだが、鈴木正義という人はいつもそんな感じだ。
けれど今日は無視することができなかった。
「…行けない」
「分かったよ」
弱々しい答えに、勇気を出して数学教師の名前を呼んだ。
「すみません、鈴木さんが体調不良みたいで…」