嘘ごと、愛して。
正義を直視できずに目を逸らした瞬間、
鈍い音が聞こえた。
「正義、熱だからって駄々こねないの」
右頬を手でおさえたまま正義は盛大な咳を連発する。苦しそうだ。
「あら、病人を叩いちゃったわ」
「男の子ですから大丈夫」
晴人さんとお姉さんはなんとでもないことのように笑っていた。
「さぁ晴人、馬鹿な弟は放っておいて買い出しに行くわよ」
「了解」
もう正義は何も言わずに1人掛けのソファーに座った。
私の目の前のソファーなのですが、どんな顔をすれば?
こっちの好意を有り難く受け取れと文句の一つでも言ってやれば良かったが、タイミングを逃してしまった。
横目で見た正義の殴られた側の頰は先程より赤みが増している。
心配なんてしてやるもんか。
それとも私、帰った方が良い?
そうだ、帰ろう。
「あの、そろそろ…」
「風邪引いたのなんて、久しぶりかも」
切り出そうとすれば、
正義は言葉を発した。
「だるい…」
先程までとは違う、柔らかな声に、
妙にほっとした。