嘘ごと、愛して。
お姉さんは私たちに温かいコーンスープを入れてくれた。そして晴人さんの腕を引いて、颯爽と買い出しに出掛けてしまった。
広いリビングに2人。
賑やかな掛け合いのなくなった静かな空間。
「…咳もひどくなってきたね」
「悪い、マスクするわ」
「それより寝てなくて平気?私、邪魔だったら帰るよ」
お見舞いという目的は済んだはずだ、だぶん。
「……さっきは悪かった」
窓際のチェストからマスクを取り出した正義は窓の外を見ながら言う。
「姉貴には色々と迷惑掛けてるからさ、これ以上、手間かけさせたくなくて。今日だってこんな俺の為に仕事休んでるわけだから。本当に心配性だよな」
「風邪の時くらい甘えても良いんじゃない?」
「今日だけじゃないんだ。俺のわがままのせいで姉貴は夢を諦めて、それでいて、まだ俺の面倒を見ようとしてる」
正義の重い口ぶりから昨日今日の話ではないことが伝わってする。
「この家も姉貴が働いて稼いで、一緒に住まわせて貰ってる。ーー早く、海外に行って、姉貴から離れたい。今の姉貴の人生は俺中心で、結構、辛い」
熱のせいだろうか。
いつもは屈託のない笑顔で包み隠されてしまっている彼の本心に触れた気がした。
「海外に行きたい理由って…」
「別にどこでも良いよ。姉貴を自由にできるなら」
「……」
聞いても良いかな。
少し躊躇って、正義に問う。
「じゃぁどうして、海外に行かなかったの?」
窓の外を向く正義の背中が、僅かに震えた気がした。