嘘ごと、愛して。
「村山、悪いけど、宿題見せて」
悪い?
そんな気遣いの言葉を入れても、騙されない。これは正義の口癖みたいなものだ。
春休み明けの始業式から、宿題が出される度に、正義は同じことを繰り返してる。
絶対に見せてやるもんか。
今日こそは、絶対に。
「村山ちゃん、頼むよ」
「……」
正義は私の後ろの席だ。不意に背後から、私の頭をポンポンと、優しく、けれど慣れた手つきで叩かれた。
ほら、反則。
女の子の頭に気安く触る男ってどうなのよ?
昨日は保健室で手首を掴んだり、軽い男だと思う。
「村山ちゃん、俺のこと、嫌いなの?」
いい加減、放っておいてよ。
腹が立つ。
甘い、ーーけれどどこか心地よい声に騙されそうになる自分に、腹が立つ。
正義に宿題を見せたい女子なんて、大勢いる。というか、私以外のクラスの女子全員?
なのに、なんで、私に構うの?
その答えは、今の私には分からない。
「仕方ないなー。ほら、アンタの大好きなチョコレートあげるから」
横からすっと伸びてきた手は、私の机の上に一粒のチョコレートを置いた。