嘘ごと、愛して。
第5章 2人の約束

あの日、正義のお姉さんに対する思いを聞き、家族に対する思いやりと、彼の弱さを見た気がした。

ーー心が動いた。


意識しはじめていた気持ちを悟らざるを得なかった。



彼に対する想いに名前をつけるとしたら
"はつ恋"。



甘酸っぱい?
ううん、今はただ罪悪感と、苦しみでいっぱいだ。


嘘をついて正義に近付いた私を、
彼は許しはしないだろう。


「どうして?」

「どうしてって?」

「なんであいつ?」

「分かってる。正義は真凛の好きな人だってこと」

「そうじゃない」


土曜日、近所のカフェに裕貴を呼び出した。
真凛は私の呼び掛けには少しも答えてくれず、もやもやした気持ちを吐き出したかった。

塾もある裕貴には申し訳ないが、話を聞いてもらうことにしたのだ。

トートバッグに入った何冊もの参考書に、頭が痛くなる。
早く切り上げないと。


「なんで、真凛も志真も、鈴木正義がいいの」

「気付いた時にはもう…」

裕貴は深い溜息をついた。


「それで彼に身代わりだってことを打ち明けるつもり?」

「それは絶対にない!」

しー、と裕貴が口元に手を当てる。
突然の大声に、静かなクラッシックが流れている店内の視線が私に集まる。


「…もしかしたら真凛は正義のことが好きかもしれないから。だから言わない」


先に正義を好きになった真凛を裏切るようなことはしたくない。

それに、もしも。
私が真凛でないと知って、正義が態度を変えたら…彼に冷たくされたら、私は、きっとーー深い闇に落ちるだろう。


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